「日本ワイン」という言葉をよく見かけるようになり、甲州(こうしゅう)やマスカット・ベーリーAという品種名も棚に並ぶようになりました。でも、この2つが具体的にどんな味なのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。結論を先に言えば、甲州は「繊細で和食に寄り添う辛口の白」、マスカット・ベーリーAは「いちごを思わせる軽やかな赤」です。この記事では、両品種の香り・味わいの違いから、近年世界で評価が高まっている理由、そして食卓での楽しみ方までを一気に整理します。

まず結論:甲州とマスカット・ベーリーAの違い
両品種は色も味わいの方向性も対照的です。まずは全体像を表で押さえておきましょう。
| 品種 | 色 | ボディ | 香りのイメージ | 得意な料理 |
|---|---|---|---|---|
| 甲州 | 白 | 軽い | 和柑橘・グレープフルーツ・かすかな苦み | 寿司・天ぷら・出汁の和食 |
| マスカット・ベーリーA | 赤 | 軽い | いちご・キャンディ・綿菓子 | 焼き鳥(タレ)・照り焼き |
共通するのは「軽やかで、旨味の効いた和食に寄り添う」という点です。渋みや樽の強い外国産ワインとは方向性が異なり、繊細な日本の食卓に自然になじみます。海外の代表品種を先に押さえたい方は、初心者向けブドウ品種5つの味の地図を読んでから戻ると、違いがよりくっきり見えるはずです。
甲州:繊細な辛口白の代表
甲州は、主に山梨県で栽培される白ワイン用の品種です。実は果皮がうっすらとピンクがかっているのが特徴で、白でも赤でもない「グリ系」に分類されます。この繊細さが、そのまま味わいにも表れるのです。
香りは、レモンや柚子といった和柑橘、そしてグレープフルーツを思わせる爽やかさが中心です。味わいは酸がおだやかで、後口にほんのりビターな余韻が残ります。全体に主張が強すぎず、料理の味を引き立てる「引き算」のスタイルと言えるでしょう。
近年は造り方の工夫で、表情の幅が広がってきました。代表的なのがシュール・リー製法です。
- シュール・リー:発酵後のワインを、澱(おり/酵母の残り)と一緒にしばらく寝かせる手法。旨味やコクが増すのが魅力です。
- 樽発酵・樽熟成:一部でバニラのような香ばしさを加えたタイプも造られます。
- スパークリング:軽やかな酸を生かした泡も増えています。
「淡くて水っぽい」という昔のイメージとは変わり、旨味のあるしっかりした辛口も楽しめるようになりました。

マスカット・ベーリーA:いちごを思わせる軽やかな赤
マスカット・ベーリーAは、日本を代表する黒ブドウ(赤ワイン用)です。名前が長いので「ベーリーA」「MBA」と略されることもあります。この品種は自然に生まれたものではなく、川上善兵衛が新潟で交配して生み出した日本独自の品種です。ベーリーという品種にマスカット・ハンブルグを掛け合わせて育成されました。
最大の個性は、香りです。いちごやキャンディ、綿菓子を思わせる甘く華やかな香りが立ちのぼります。これはフラネオールという香り成分が多いことに由来すると言われています。一方で渋み(タンニン)は軽く、口当たりはやわらか。「赤は渋くて苦手」という方でも、これなら親しみやすいと感じることが多いでしょう。
軽やかな造りのものは、少し冷やして飲むのもおすすめです。渋みが穏やかなぶん、キリッと冷えたほうが果実味が引き立ちます。近年は樽を使って複雑さを持たせた本格派も増え、幅が広がってきました。
甘い果実香と軽い口当たりという個性は、世界の中でもユニークな存在です。新世界の個性的な品種に興味がある方は、マルベックなど新世界の個性派品種と読み比べると、産地ごとの「らしさ」が見えてきます。
「日本ワイン」と「国産ワイン」は別物
品種の話とあわせて、ラベルの言葉も知っておくと選びやすくなります。実は「日本ワイン」と「国産ワイン」は、意味が違います。
- 日本ワイン:日本国内で収穫したブドウだけを原料に、国内で醸造したワイン。
- 国産ワイン(国内製造ワイン):海外から輸入した濃縮果汁などを使って国内で造ったものも含む。
つまり、甲州やマスカット・ベーリーAで造られた「日本ワイン」は、正真正銘の国産ブドウが原料です。ラベルに「日本ワイン」と書けるのは、この基準を満たしたものだけ。産地やブドウ品種を選んで飲みたいときは、この表示が目印になります。
世界で評価が高まる「現在地」
近年、この2品種は国内だけでなく海外でも注目を集めています。その背景には、国際的な「お墨付き」があります。
甲州とマスカット・ベーリーAは、ブドウ・ワインの国際機関である**OIV(国際ブドウ・ワイン機構)**にワイン用品種として登録されました。甲州は2010年、マスカット・ベーリーAは2013年のことです。これにより、EUなどへ輸出する際にラベルへ品種名を表示できるようになり、海外市場への扉が開きました。
評価される理由は、味わいの方向性そのものにあります。世界的に「軽やかで、料理に寄り添うワイン」への関心が高まる中、繊細な甲州や果実味の軽いマスカット・ベーリーAは、その流れとよく合致します。派手さで勝負するのではなく、食卓での使い勝手で選ばれているのです。
これらのブドウがどの土地で育つのか、地図で眺めてみると味の背景まで見えてきます。
甲州が育つ山梨や、マスカット・ベーリーAの産地を地図でたどると、「なぜこの味なのか」が土地の姿とともに腑に落ちます。世界の産地と並べて眺めれば、日本ワインの立ち位置もぐっと分かりやすくなりますよ。
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料理との相性・楽しみ方
両品種の一番の魅力は、日本の食卓になじむことです。難しく考えず、いつもの料理に合わせてみましょう。
甲州が合う料理
- 寿司・刺身(醤油やわさびの風味を邪魔しない)
- 天ぷら(後口の軽い苦みが油をすっきりさせる)
- 出汁の効いた煮物、白身魚
マスカット・ベーリーAが合う料理
- 焼き鳥(特にタレ/甘い香りが照りと響き合う)
- 照り焼き、すき焼き、肉じゃが
- 軽く冷やしてハムやソーセージと
甲州はよく冷やして、マスカット・ベーリーAは軽めなら少し冷やして。この温度のひと工夫で、持ち味がさらに引き立ちます。海外の固有品種と飲み比べたいなら、スペインを代表するテンプラニーリョのような各国の「顔」となる品種と並べてみるのも面白い試みです。
なお、ワインを楽しめるのは20歳になってから、量はほどほどに。少量をゆっくり味わうほうが、繊細な香りの違いもよく分かります。
まとめ
日本の2大品種の「現在地」を、最後に振り返っておきましょう。
- 甲州は和柑橘を思わせる繊細な辛口白。シュール・リーなどで旨味の幅が広がっている。
- マスカット・ベーリーAはいちごのような甘い香りと軽い渋みが個性の、親しみやすい赤。
- 両品種ともOIVに登録され、「料理に寄り添うワイン」として世界でも評価が高まっている。
甲州もマスカット・ベーリーAも、力で押すより「食卓での心地よさ」で選ばれる品種です。まずは一本、いつもの和食に合わせてみてください。気に入ったら、その産地を地図でたどると、味の背景まで見えてもっと楽しくなりますよ。





